撮影/溝口 輝正
文/中条 徹
このページは、第5回里帰り伊勢音頭のパンフレットに
掲載された特集記事をHP用に作り直したものです
『シンプル・イズ・ベスト』

「伊勢うどん」とは、古くから三重県伊勢市地方に伝わるちょっと変わったうどんである。いや、伊勢の人にとってはなにも変わっておらず、二十年ほど前まで「うどん」といえば「伊勢うどん」だった。外からの人のために薄口のうどんと区別をつける必要性や伊勢うどんのないうどん屋の出現で、組合でその表示が決められたという。
 さて、どのようなうどんかというと、麺は極めて太く、コシがなくやわらかい。そのずんぐりした麺をあつあつにゆでて、どんぶりに入れ、その上にたまり醤油で作った真っ黒な「タレ」を麺の下に隠れるくらいに少量かける。一見辛そうに見えるが、甘さがあり何とも懐かしい味だ。そして上に薬味としてネギをのせ、一味をかけるだけのいたってシンプルなもの。

『伊勢うどんそのルーツ』

「伊勢うどん」の起源については諸説があり、これが確かというのは見あたらないが、庶民からの発祥のようではある。江戸時代以前から米の生産の少ないこの地方の農家がうどんをよく食べ、その際に地みそからできるうわずみ「たまり」を少しかけて味を付けて食べていた、というのが有力な説だ。
 そのうどんを商売にとする際、たまりだけじゃなく、だしやみりんで、より美味しくと考えるのは自然なことである。三百年以上の歴史、当然この温かみのあるうどんは旅人も慰めてきた。きっと、おかげ参りのあの大群衆も庶民のものとしてお伊勢さんとともにこの「伊勢うどん」をしっかりと心に刻み込んでいったにちがいない。


他の地方ではこの味は出せないと言う秘伝の「本たまり」をベースに独自の味付けをする。起矢食堂さんではタレをねかしてとろみをつけ、現在の味に落ち着くまで7〜8年かかったという自慢の味。

極太のやわらか麺をあつあつにゆであげる。この伊勢うどん専用の麺もこの地方だけのものである。



食べる時は、とりあえずタレとうどんをからめる。かき混ぜるかき混ぜる。
タレが充分麺とからみ、とろみが出てきたら食べ頃です。

 
今回取材にご協力いただいた、起矢食堂さん。江戸時代、参宮客で賑わった古市の手前に位置し、坂を見上げる風情はなかなかのもの。新しいスタイルの伊勢うどんが登場してきている中、伝統の味を守り続けている。よくしゃべる気さくな女将さんと優しいご主人さん。旅人も変わらぬ笑顔で温かくむかえてくれる
起矢食堂
伊勢市尾上町5-31 0596-23-5740
営業時間/午前11:00〜午後8:00
火曜日休み
 

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